地震や台風などの自然災害で、停電に見舞われたとき、電気自動車の大型バッテリーから自宅へ給電できることをご存じの方は多いと思います。
今回は非常用電源としてのEVに焦点をあて、給電方法や必要な機器、給電時の注意点などを解説します。
スムーズな走行だけが電気自動車の魅力ではありません。
災害の多い日本で、もしものときに頼りになるのが「走る蓄電池」なのです。
本記事がEV購入の後押しになれば幸いです。
目次
電気自動車は停電の際に活用できる?
災害時に停電に陥った際に、大型蓄電池でもある電気自動車が非常用電源となります。ただし、社内に電源コンセントがない電気自動車はそのまま給電することはできません。
そんなときに必要となるのが、電気自動車のバッテリーから電気を取り出すV2L(外部給電内器)です。
V2Lは、電気自動車に貯まった直流の電気を交流に変換して、災害時にスマートフォンを充電したり、家電製品を使ったりすることを可能にします。
外部給電の方法
電気自動車のバッテリーから給電する方法は、「車内の100V電源コンセントを使う」「車の急速充電口から給電する」の2つです。
V2Lが必要になるのは、後者のケースです。
それぞれ、詳しくご説明します。
方法①車内に備えられている100Vの電源コンセントを用いる
電気自動車の車内に装備された「給電用コンセント」を、100V電源コンセントといいます。
給電用コンセントがあれば外部給電器をつなげる必要はなく、車から電化製品に直接給電することができます。
ただし、100V電源コンセントは電気自動車の全車種に装備されてはおらず、装備されていない車種も多いです。
特に、欧米車には、給電用コンセントを備えた電気自動車はほとんどありませんから注意してください。
使用できる電気は、2口合計で最大1500Wまでです。
方法②車の急速充電口に特定の機器をつなげる
100V電源コンセントが非装備の電気自動車であれば、車体にある急速充電口に特定の機器をつなげて給電を行います。
現在、電気自動車から給電するには、もっとも一般的な方法です。
次の2つの機器が用いられます。
V2L(外部給電器)
V2L(Vehicle to Lord、外部給電器)は、車内の100Ⅴ電源コンセントよりも大きな電力を給電できる、頼りになる製品です。
その実力は以前から注目されていましたが、脚光を浴びたのは、2019年の台風15号による千葉県大規模停電の復旧作業や、避難所に電気を供給する際に使用されてからです。
2021年8月には、V2Lの専門メーカー・ニチコンが同社主力の「パワー・ムーバー」を小型・軽量化し、災害時以外での利用も想定した「パワー・ムーバー ライト」を発売。
イエロー、ブルー2色のカラーバリエーションを揃え、災害時以外にも、キャンプなどのアウトドアユース、野外イベントといった普段使いに利用されています。
V2H(充放電設備)
V2Lの活躍の場が主に避難場所やアウトドアだとしたら、家庭内でEVバッテリーを有効活用するための機器が充放電設備「V2H」(Vehicle to Home)です。
V2H機器を導入すると、自宅の停電時にEVの大容量蓄電池から自宅に給電したり、安い夜間電力をEVに充電し、日中にその電気を自宅に給電したりといった使い方ができます。
V2Hは双方向の充放電設備ですから、電気自動車からの給電とともに、電気自動車への充電も可能です。
V2Hは普通充電の約2倍の最大6kWの高出力で充電できるため、電気自動車の充電時間が従来の半分程度に短縮できるといったメリットもあります。
充電が短時間で済めば電気自動車を使用できる時間も増えて、利便性が高まります。
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電気自動車から給電する場合の注意点
経済産業省が国土交通省と連携してとりまとめた「災害時における電動車の活用促進マニュアル」には、電気自動車から給電する場合の注意点が列記してあります。
2020年7月と、かなり前に発表されたもので、当時は電気自動車の保有者でも、非常時にEVから給電ができることを知らない人が多くいました。
当然のことながら、電気自動車からの給電に際しての安全確認や注意事項も知れ渡っておらず、役所もこうしたマニュアルを作成する必要があったわけです。
もちろん、今でも十分使えるマニュアルですので、改めて紹介します。
給電する車両側
車外に電源コードを引き出し、使用中に誤って車両を発進させないように、シフトはPポジションにして、パーキングブレーキをかけ、輪止めを設置してから給電を開始します。
車両側の注意点
車両の安全確保
電源コードの発熱防止
たこ足配線による発熱防止
配線の防水確保
換気
車外に電源コードを引いて使用する場合は、雨水の侵入などに注意が必要です。
コンセントに雨水が付着した場合は、乾燥させないで使用すると危険だからです。
使用する電気製品側
電気製品側の注意点
使用する電気製品の取扱書の注意事項を守る
AC100Vで最大消費電力1500W以下の電気製品を使用する
振動や極寒地・炎天下で電気製品が故障する可能性がある
一時的に出力が断たれることもあるため、医療機器には使用しない
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電気自動車に貯めた電力は、何日使える?
電気自動車に貯めた電力で、何日間くらい生活できると思いますか?
1世帯あたりの1日の電力消費量を12kWh弱と仮定すると、60kWhの電気自動車バッテリーで4〜5日間暮らせる計算になります。
フル充電して暮らせる目安が、だいたいこの程度ということです。
一人暮らしであれば、電力消費量も少ないですから、電気が使える日数は1週間程度まで延びます。
消費電力は季節や世帯毎に異なるので、ご家庭の日頃の電力消費量を把握しておくとよいでしょう。
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実際に電気自動車が災害で活躍した事例
ここからは、実際の災害時に電気自動車が活躍した近年の事例を3つご紹介します。
北海道胆振東部地震
北海道の広い範囲が揺れた2018年9月の北海道胆振東部地震では、火力発電所のボイラー管が破裂して、道内で大規模な停電が発生しました。
札幌市では約2,000人を対象に、電気自動車を主電源とした携帯電話サービスを実施。
室蘭市では自主避難所に電気自動車と給電器を設置し、照明やテレビ、携帯電話充電の電源に使用しました。
令和元年(2019年)房総半島台風
令和元年(2019年)9月に来襲した台風15号では、千葉県内で約64万件の停電が発生しました。
その際、非常用電源として電気自動車が活用されました。
特に電気自動車が活躍したのは、避難所や福祉施設です。
熱中症対策のために扇風機運転、スマートフォン・携帯電話の充電、照明への使用など、電気自動車が多くの地元住民の生活の支えとなったのです。
千葉県内の停電は長期に及んだため、車メーカー各社が協力して電気自動車やプラグインハイブリッド車(PHV)を千葉県に派遣しました。
蓄電池がない場所でも電力を供給できるよう、車と可搬型の給電器(V2L)を同時に使用し、避難所や地域巡回して個人宅での給電、高齢者施設の蓄電池への充電を行いました。
令和元年東日本台風
令和元年房総半島台風の翌月に発生した台風19号(令和元年東日本台風)は、長野県の復興支援のために給電器としての電気自動車が活躍した事例です。
電気自動車からボランティアセンターに電力を供給し、電動工具の充電や温かいご飯の提供が行われました。
電気自動車は1500Wまで電力を使用できるため、電気ドライバーや丸ノコギリを矢継ぎ早に充電し、浸水した家屋の撤去作業に貢献しました。
復興のために使用された電気自動車は、系統電源の復旧後に充電が行われ、別の被災地へと転戦。
これを契機に、復興を支える手段として電気自動車が活用される例が増えていきました。
走るだけではない!停電時の救世主となるEVの給電機能
地震や台風など自然災害の多い日本では、いつ何時停電に襲われるかわかりません。
電気が使えなくなると、エアコンが使用不能となり、災害後の体調不良という二次災害に見舞われるおそれもあります。
非常時の情報収集アイテムとして、命綱となるスマートフォンも、停電時の充電環境を確保しなければなりません。
そんなとき、V2Hがあれば、停電時でも電気自動車のバッテリーから自宅に給電して家の電気が使えるため、冷暖房もスマートフォンの充電もできて心強いですね。
今後も防災面からも電気自動車を導入する方は増えていくかもしれません。
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